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2024年05月18日
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それは真の愛の歌

2011年11月05日
最近ぼちぼちとメモでネタを書いていたやつの本編。
とりあえず自分確認用に乗せておきます。中途半端です
(増えたり減ったり変わったりする可能性アリ)

 世界は双つ
 人の世界 と 龍の世界
 交わることのない世界は
 ある日を境に狂いだす

 人の娘 と 龍の男
 彼らは出会い 彼らは知る
 世界が交わらない事実
 彼らがむずばれない真実

 彼らは望み 彼らは願う
 世界が一つになることを
 世界は歪み 世界は狂う

 人も龍も 交わることを恐れた
 人は龍の男を殺し
 龍は人の娘を殺した

 それから世界はお互いに
 歪み 狂い そして


 其れは真の愛の歌

1
 一人のシスターがいた。彼女は、教会の中で暮らし、教会の中で生きている。
 黒い髪と黒い瞳を持つシスターは、いつも同じ時間に目覚めて、いつも同じ時間に食事を採り、いつも同じ時間に祈りを捧げている。広い教会で、一人で。
「……神よ」
 彼女の祈りは、彼女の願いは、いつも同じ。
「私と同じ姿をした者を、私に見せてください」
 手を組む彼女の願いは、自分以外の人間に会うことだった。きゅ、と目を閉じて、祈りを捧げた。しかし、彼女が知る限り、その願いは叶っていない。
「神様……」
 そして彼女はいつもと同じ時間に掃除を始める。毎日掃除していて、教会内はいつも綺麗なのだが、シスターは掃除を怠ることはなかった。窓を開けると、外には虹色の空が広がっていた。
「……綺麗」
 いつもと同じように、シスターは呟く。シャボン玉のような輝きを放つ空は、いつも違う色をシスターに見せてくれた。毎日、同じような生活をする中で、唯一の違いがその空の色だった。
 掃除を終えて、シスターは教会の扉を開いて外に出る。扉の向こう側はシスターの歩幅で五歩程度しか歩く場所がない。崖に建つその教会には、誰も来ることは出来ない。それを理解していても、シスターはどうしても自分以外の人間を見たい、という願いを捨てることが出来なかった。
 崖の一番端に立って、下を覗き込む。空と同じように、虹色の光が広がっていた。きっと、ここは宙に浮いているのだろう、とシスターは考えていた。シスターは生まれてからずっと教会から出たことがなく、遠目から教会を見たことがなかったのだ。
「……さて」
 いつものように崖の下を覗き込んだ後、シスターは教会の中に戻った。教会の中心に立って、シスターは目を閉じる。それから、小さく息を吸った。
 シスターは、歌った。
 いつもと同じ時間、いつもと同じ場所で、いつもと同じ歌をシスターは歌った。
 その歌は悲しい恋の歌だった。交わるはずのない二人が出会ってしまい、恋に落ちて、最後は引き離されて殺される。そんな歌を、シスターは何故か覚えていた。
 シスターは、自分の両親がどんな人間だったかを知らない。今までどのように暮らしてきたのか、どのような教育を施されたのか、どのような愛され方をしたのか、全く知らないで現在生活をしている。
 教会の地下の保存庫には大量の保存食があった。それはシスターが何年も、何十年も生活出来るほどで、どうやら腐らないような加工をされているらしく、いつも新鮮な味がした。
「……」
 食事の際は、特にしんとしている。シスターは、この食事の時と、眠る前の重い静けさがどうしても苦手だった。そのため、シスターは特に食事の味をゆっくりと味わうことなく、早く食べている。
 いつもと同じ、いつもと変わらない、それがシスターの日常だった。

2
 夜。シスターは、いつもと同じように小さな祈りをしていた。
「私と同じ姿の者が、明日は来ますように」
 小さく目を閉じて、そのまま眠りにつく。それが、シスターの一日の終わりだった。
 そして、いつもと同じ時間に目を覚ます。目覚し時計も何もないのだが、シスターはいつも同じ時間に目を覚ますことが出来た。それからいつもと同じように祈りを捧げる。
「……神よ」
 諦めることの出来ない願いを、シスターは祈る。
「私と同じ姿をした者を、私に見せてください」
 祈りを終えた後、シスターは掃除をして、窓の外を見た。空の色はまたいつもと違って、シスターは嬉しくなった。
「……綺麗」
 今日の空は、はっきりとした青色。今までに見たことのない鮮やかな空の色にシスターは小さな微笑みを零す。
 それから、外に出て広がる空を見たあと、シスターはいつもと同じように教会の中心で歌を歌った。
 龍と人が出会い、恋に落ちる。しかし、種族の違う二人の恋は、世界を歪ませる原因となった。それから、二人は殺されて、それから、
「……あれ」
 シスターは歌い終えた後、小さく呟いた。いつもと違う、変化だった。
「この物語……世界は、どうなったの……?」
 シスターの歌は、二人が殺された後、世界がどうなったのかがわからない。今まではそんなことを気にせずに歌っていたシスターだったのだが、今日はその続きが気になってしまったのだ。そして、一つが気になるとまた別のことが気になり始める。
「どうして、この二人は殺されてしまったの? どうして、世界は歪んで、狂ってしまったの?」
 シスターはぐるぐると教会内を歩き回る。顎に手を当てて、シスターは歩き回りながら考えるのだが、全く答えが浮かばない。どうして、どうして、と疑問だけが頭の中であふれてくる。
「神様……どうしてですか?」
 そして、彼女は教会の大きな十字架を見て尋ねた。しかし、答えが返ってくることはない。
 いくら祈っても、私の願いは叶わないのだろうか。シスターは泣きそうな顔をして、十字架を見上げる。願いは、結局願いであって、叶いはしないもの。そうなのだろうか、とシスターが問いかけようとしたときだった。
 教会の扉が、開かれた。

3
 バージス・インはバイクでその砂漠を走っていた。ユアの一族が作った特殊なそのバイクは、砂漠でも普通の路面を走るような感覚で砂漠を走ることが出来る。砂交じりの風が吹くが、バージスはそんな風を浴びてバイクを走らせるのが好きだった。
 本来なら、軍部に引きこもって書物を整理するはずの彼だったが、さすがに一週間室内に居続けて息苦しくなり、現在、バイクを走らせている状態に至る。風景が全く変わらない砂漠を走っても、バージスは退屈に思わない。むしろ、それこそ楽しいと思えるようだった。ゴーグルに砂が当たる音すら、愉快に思っている。
 それからバージスは、水を飲もうとバイクを適当な位置で止めた。腰につけているポシェットからペットボトルを取り出し、水を口の中に含む。空を見ると、澄んだ青が広がっていた。久しぶりに外に出るのは、気持ちがいいと強く実感した。しかし、長々と出ているのが見つかったら、上司に文句を言われてしまうだろう。そう思ったバージスは、バイクに跨り軍部へ戻ろうとした。
 その時、バージスの視界に今まで目に入らなかったものが入り込んだ。
「……なんだ?」
 ゴーグルを外して、バージスは目を凝らす。視線の先には、何か建物が見えた。黒い屋根に、白い壁。今までバージスが見たことのないような造りの建物だ。
「あんなもの、この辺にあったのか?」
 疑問に思ったバージスは、軍部に戻る予定を変更してバイクをそちらに向けた。再びゴーグルをつけて、バージスはバイクを走らせる。砂埃が上がり、少しずつその場所に近付く。どうやら、蜃気楼ではなかったらしい。
 しかし、実際にその建物に近付くとその異変に気がついた。
「……結界か」
 建物の周りを、まるでシャボン玉のように丸い結界が囲っていた。こんなものが、まだあるのか。バージスは少し驚いた。あの戦いの後なら、こんなものは必要ないはずだ。しかし、その結界はだいぶ効果が弱まっているらしい。バージスが手を伸ばすと、それこそシャボン玉のようにパン、とはじけて消えてしまった。
「しかし、こんなもので守るって……ここは、一体……」
 そしてバージスは結界を越えて建物の扉の前に立った。自分の背丈の二倍ほどある大きな黒い扉を、バージスはゆっくり押して開いた。
 目の前に、黒い髪と黒い瞳を持つ、シスターが居た。

 目の前に現れた人物を見て、シスターはぱちぱちと瞬きをした。
「……うれしい」
「え?」
 シスターの呟きを聞き取ったバージスは、意味がわからずに声を上げた。と、同時にシスターはバージスに駆け寄ってきていた。そしてシスターはバージスの手をとる。
「はっ、はじめまして! わ、私ここのシスターです! ええっと、お、お祈り、ですよね?!」
「あ、あの?」
「私、ずっと、ここにいて、その、だからっ、えっと!」
「あの、落ち着いて……」
 興奮した様子のシスターに驚きを隠せないバージスはシスターに握られた手を放して、シスターの肩に手を置いた。
「あんたは、ここのシスター? ここは一体……」
「教会です!」
「いや、それはわかってるけど、だから……」
 いざ色々訊こうと思ったら、言葉が出てこなかったバージスは視線をあたりに向ける。
 今まで、こんな建築物がこの周辺にあった、という記録はなかった。書の一族である自分たちの記録にも残されていないその建物見て、バージスは確信した。
「あんた、もしかして……人間、なのか?」

4
「あんた、もしかして……人間、なのか?」
「え?」
 唐突な問いに、シスターは声を上げる。バージスはじっと、シスターを真剣な顔で見つめていた。
「どういう意味、でしょうか?」
「……やっぱり、そうだな。あんた、人間だ」
「え、と。あの、貴方、は?」
「俺は、龍だ。あんたたち人間の、敵、だ」
 龍、という単語を聞いてシスターははっと目を開いた。それは、ずっと今まで聞いたことのある、言葉だった。
「じゃあ、貴方は、知っているのですね」
「え?」
「龍と、人がどうなったのか。彼と、彼女が、どうなったのかを!」
 シスターはバージスの肩を掴み、叫ぶように尋ねた。突然の叫びに、バージスは驚きを隠せず、びくりと震えた。
「お、落ちつけって! 彼と彼女、って……」
「ずっと前から知っている歌です! 龍の男と、人の娘が恋に落ちる、歌!」
 龍の男と人間の娘。それを聞いたバージスはゆっくりとシスターの手を掴み、肩から手を離させた。
「どうして、あんたが知ってるんだ……、人間の、あんたが……」
 尋ねようとしたそのとき、バージスのポシェットからピー、ピー、という高い警報音が鳴り響いた。
「わぁっ?!」
 突然の音に、シスターは驚きの声を上げる。バージスはポシェットの中をあさり、手のひら大の通信機を取り出した。
「シスター、ちょっと静かにしててもらっていいかな」
「あ、えっと、は、はい」
 よくわからないままシスターは頷き、自分の手で口をふさいだ。それを見てバージスはふっと微笑んで通信機を操作した。
[バージス、応答しろ]
「こちら、バージス。通信状況クリア、電波障害はみられません」
[わかっている。お前は今、どこにいる]
 通信の相手は自分の上司。仕事場からいなくなったバージスに怒っているのか、口調はどこか荒々しく感じられる。バージスはあたりを見て、小さく息を吐き出した。
「本部からそんなに離れてませんよ。少し気分転換に外に出ただけです。もう戻りますよ」
[当たり前だ。まだ書類整理は終了していないのだからな。さっさと戻って来い]
 ぶちっ、という大きな音がして通信は途切れた。バージスは苦い表情をしながら通信機をポシェットに入れた。
「ありがとうシスター。もういいよ」
「あっ、はい」
 バージスに言われると、シスターは口をふさいでいた手をぱっと放して真っ直ぐに立った。それを見てバージスはふっと微笑む。まるで子どものようだ、と思ってしまった。
「……あ、あの」
 シスターがどこか不安げに、口を開いた。
「ん、どうした?」
「その……もう、お帰りになられるのですか?」
 少し寂しげに尋ねるシスターを見て、バージスは驚いた。
 これがかつて戦争していた相手と同じ種族だと言われて、信じられるだろうか。目の前に居る相手は、今にも泣き出しそうに震えている、ただの少女である。
「……来るよ」
「え?」
「明日も、また、来る。だから、そんな泣きそうな顔するなよ」
 バージスはそう言って、シスターの頭をがしがしと強く撫でた。ぼさぼさになった黒い髪をそのままにして、シスターは強く頷いて笑う。
「はい! 明日はお茶を用意してお待ちしています!」
「楽しみにしてる。それじゃあ、また」
「はい、また!」
 バージスは扉をくぐり抜け、外にあるバイクに跨る。ゴーグルをかける前に開かれた扉の方を見ると、シスターがにっこりと笑ってバージスの方を見ている。それを見て、バージスは頬の筋肉がまた緩んだ。
「じゃあな」
 ゴーグルをかけて、バイクのアクセルを踏む。ブン、と大きな轟音がするとバイクが発進した。
「また、待っていますから!!」
 シスターは扉から身を乗り出し、大きく手を振る。バックミラーでそれを確認しながら、バージスは片手を挙げてそのまま走り去った。

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