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2024年05月19日
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リョーコとある作家 の 前身

2010年05月05日
サイトに掲載している『リョーコとある作家』の原型となる物語を発掘したのでUPしてみる。
流れは全く話と変わっていないのですが、ちょっと先生が強気であるのと、良子ちゃんがリア充っぽいという違いがあったり。

でも未完成っていうオチ\(^o^)/
「ともかく、僕はそういった小説を小説と認めたくないね」
 良子は目の前の男性を見てため息をついた。男性は良子の持つ本に不満があるようだ。
「だから、小説を読めって言ったからこれ買ったんだよ。今話題だし」
「確かに小説を読めとは言った。けれど、それを読めなんて言った覚えはない」
 ふん、と鼻を鳴らして男性は良子から顔をそらした。そう言った行動をするから子どもなんだよなあ、と良子は思った。そして、良子は机の上にある本を手にとる。
「いいじゃん、これ面白いし」
「どこが?!」
「だって、こう言った純愛ってよくない? あたし、好きなんだけど」
「はぁ、君はかわいそうな世代だ」胸ポケットから出したハンカチを出して、目に当てながら男性が言う。泣きまねのつもりだろうか。良子はもういいや、と思い本を開く。
「それを小説という君たちの考え方が理解できないね。もう少し文学に触れるべきだよ」
「ここから文学に発展すると思わないの? それにさ、そんなに言うなら、あたしたちにでも触れやすい、しかも面白い小説でも書いてみたらどうなの? 大先生?」
 刺々しく良子は男性を指さして言った。男性は静かに目を閉じて鼻から小さく息を出す。
「僕は書いているんだ。だけれどね、それを理解しない社会が悪い」
「社会のせいにするのは駄目な大人の証拠だって、うちの現社の先生が言ってたよ」
 良子の言葉に男性は「うっ」と言って胸を押さえる。「違うのだよ、僕は駄目な大人などではないのだよ」
「そうやって必死に言うところが怪しいよ」
「いやいや、必死なんかではないよ。うん、僕は平常心を保っている」
 怪しく動く口の端、普段見せないように歪んでいる眉、額に浮かぶ汗の玉。そして、わずかどころか激しく震えている声に、良子は苦笑いを浮べるしかできなかった。大人なんだから、もうちょっと隠したらどうなのよ。
「それで、書いた?」
「何を」
「話」
 笑っている男性。先ほどの引きつった表情のまま笑っているので、書いていないことを容易に理解することができた。『何でも社会のせいにすること』と『約束を守らないこと』は駄目な大人の条件にぴったりはまるな、と良子は目の前の男性を見て納得した。その良子の視線を感じた男性は「違う違う!」と慌てて手を振る。
「書いているのは、書いているんだ。ただね、詰まってしまって」
「あー、駄目な大人の条件に『すぐに言い訳をすること』っていうのも必要だね」
「だから僕は駄目な大人じゃないって!」
 必死に叫ぶ男性を見下すように、あるいは本当に書いているのか探るように良子は見つめる。
「書いてくれるって言ったじゃん。『良子ちゃんのためなら僕は何でもできるよ』って言った馬鹿な大人はどこの誰ですか?」
「ちょっと、馬鹿っていうのはやめてあげてください。僕のために」
 駄目な大人と呼ばれた上に馬鹿な大人と呼ばれる男性の立場はまるでない。先ほどまで良子の持っていた本にけちをつけていた元気はどこかに消えてしまっている。
「まあ、必ず書き上げてくれるんでしょ? あたしの誕生日までに」
「も、もち、ろ、んさ」
「うわ、すごく不安にさせる返事」
 完全に良子は男性を白い目で見つめている。どちらが年上なのか全く理解できない関係である。
「大丈夫、今まで僕が良子ちゃんに嘘をついたことはないだろ?」
「っていう事がまず嘘じゃないの」
 指をさして、良子が男性にはっきりと言った。それを聞いた男性はまた唸って胸を押さえる。
「出たな、傷ついたフリ。しかも可愛くない」
「しかもは余計だよ。良子ちゃん、毎回会うたびにひどくなってない?」
「全然」
 この人、私より年上なのかな? なんて思いながらも良子は微笑んでいる。

 良子が再び男性のところへ行くと、男性は幸せそうで満足そうな笑みを浮べている。
「さてと、良子ちゃん」
「はい、何でしょうか大先生」
「出来上がりました」
 男性が良子に渡したA4の紙の束は、50枚近くあるようだった。受け取った良子は何度も大げさに瞬きをして、紙を見る。
「これ、書いたの?」
「もちろん」
「本当に、書いたの?」
「あれ、疑ってる?」
 良子は頷いた。「まさか本当に書きやがるとは思いもしなかった」
「書きやがる?」
「いや、何でもないです。えっと、本当に書いてくれたんだ」
 良子ちゃんのためなら、何でもできると言ったその日のことを良子は思い出していた。なんだ、やれば出来る子じゃないか。良子はまるで教師になったように思った。将来教師になるのもいいかな、なんて考え始めている。
「これ、小説?」
「僕は小説作家だからね。ノンフィクションを書いても、良子ちゃんにとっては面白くないでしょ」
「うん」この男性の生活をまた改めて見ても全然面白くない。良子は素直に頷いた。
良子は受け取った紙をぱらぱらとめくる。紙の隙間がほとんどないくらい文字が記されている。これが男性の手書きだったら絶対読めないな、と苦笑いしながらそのパソコンで書かれた文字を見つめる。
「すごいね」
「内容読んだらもっと感動するだろうね」
「でもな、この間の小説の方が好きかも」
 その言葉を聞いた瞬間、男性の肩が傾いた。「え?」と間抜けな声まで上げている。
「いやいや、私はああいった小説の方が読みやすいなあって」
「そ、そんなもんなの?」
「それは読者の考え方じゃない。あたしはああいった小説が読みやすいと思うの」
 良子は言った後に、またこの言い争い続けちゃった、と少し後悔していた。しかし、その後に男性は「そうだね」と頷いた。
「そう納得すればいい……え?」
「何、どうしたの?」
「いやに素直だから、気味が悪くて」
「失礼な」
 不機嫌そうに、男性が言う。良子からしたら、男性が一度否定したことを素直に納得することは不気味なことなのである。どうしたんだろう、と良子は少し心配になった。
「今まで僕はあれを読んだことがなかったからね。ちょっと否定したことを後悔したよ。ああ、でも僕が書いた話のほうが感動的だと思うけど」
「うわ、自画自賛」
 そうでもしないとやってられないんだよ、僕の場合。男性がそのようなことを言っていたが、良子は無視した。そして持っている紙の束に視線を移して、文字を見つめる。感情を見せない、淡々とした機械の文字。
「ねえ」
「どうしたの?」
「これって、パソコンでそのまま打ったの?」
 良子の突然の質問に、男性は「うん?」と聞き返した。そして、「いや、一回手書きで全部書いたよ。それから、パソコンで打った」
「ふーん」
 聞いていてその態度か、と男性は苦笑いを浮べたが、良子が真面目な顔をしているのに気付いた。話を読んでいると言うよりは見つめているように見えて、少し不思議に思った。良子が話を読むのは今まで何度も見てきたけれど、今日の読む姿は何かが違う。
「どうしたの、良子ちゃん」
「手書き版がほしい」
 良子は先ほど男性が渡した紙の束を男性の胸に押し付け、言った。
「へ? 何で」
「だって、手書きの方がいいもん」
「いやいや、でも読めないでしょ」
 以前、良子に小説を手書きのまま渡したとき、良子が「何、このヘビ?」と言ったのを男性は覚えていた。そのため、良子に小説を見せるときはパソコンで一回打ち込んだものを見せているのだ。
「いいから、手書きを渡しなさい」
 命令口調で良子が言う。「わかりましたよ、王女様」と男性は適当に返事をしながら机を漁る。
「はい、これ」
「ん」
 良子は男性から紙の束を受け取り、また見つめる。
「うん、こっちの方がいい」
「ヘビじゃなかったっけ?」
 にやりと笑いながら男性が言う。
「いや、ヘビ以下。何だろう」
 良子はしばらく顎に手をあて沈黙した。
「糸くず?」
 微笑を浮べながら良子が言う。

「聞いて、良子ちゃん」
「聞きません、大先生」
 良子に言い切られた男性は小さく肩を落とした。そして、首を振ってもう一度良子に言う。
「聞いてください、良子様」
「何?」
「受賞したんだ」
 そう言って、男性は良子の前に昨日貰ったばかりの賞状を突きつける。それを見た良子は眉間に皺を寄せ、顔を近づけて賞状を見た。「嘘だ」
「嘘じゃないって。これ、どう見ても賞状でしょ?」
「いや、実は手作りですって事も今の時代出来るから」
「失礼な」
「でも、どうしたの? 何の賞?」
 腰に手をあて胸を張り、男性は自分が受賞した賞の名を言う。それは良子も聞いたことのある雑誌社の新人賞だった。
「へぇ」
 しかし、良子の反応はそれだけだった。
「え、良子ちゃんひどくない?」
「全然。だって、あたしのおかげで受賞できたと言っても過言じゃないもん」
「ひどい」
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